イオンデポジットの原因
古くはウォータースポットとも言われていた水分の乾燥痕「イオンデポジット」についての解説と原因
イオンデポジットとは?
聴きなれない言葉かと思いますが、自動車業界では他にもカーボンデポジットなどという言葉もあり、主に「固着物」のような意味合いがあります。イオンデポジットは塗装上で水分が蒸発した際に残留し固着した金属イオン(カルシウム、シリカ、マグネシウムなど)の総称のことです。
簡単にいってしまえば洗車中に水分が乾いてしまった→白い輪状のシミが・・・。これがイオンデポジットです。洗剤成分が混じっていたり、ボディーの汚れの成分、使っていた水の水質によって固着度や浸食が異なります。
左は低撥水~撥水被膜の水道水固着化検証、右は親水性被膜の同検証。
ウォータースポットとは違うのか
ウォータースポットは乾燥痕ではなく塗装の熱焼損を指しますので、現在の塗装では撥水系のコーティングを施していてもほとんど見受けられず、水が関連するという点では同じですが、イオンデポジットとは異なります。
原理としては対水接触角度が大きい(要は強い撥水・水滴が丸い状態)の場合に水滴がレンズの役割をしてしまうことによって塗装面が一部だけありえないほど高温になってしまい、ベースカラー(顔料)を焼いて変色させるという原理です。
ウォータースポット被害は塗装の品質改良によって現在はほとんど起こりませんが、レンズ効果による塗装面温度の上昇によってイオンデポジットが付きやすくなるという可能性はあります。
実態調査として撥水系のイオンデポジットが極端に酷いという結果は出ておらず、撥水状態が悪というわけではなく、施工したコーティング剤の表面材質特性でイオンデポジットが付きやすかったりします。
上の画像のような輪っか状の固着物はイオンデポジット。固着物、凹凸を伴わない円形の変色・退色をウォータースポットといい、全く異なる現象です。
イオンデポジットの原因と誘発要因
洗車に使用する水の硬度
そんなこと言われても・・・という方もいらっしゃるのは重々承知しております。しかしながら当方保有の少ないデータではありますが、白い輪染みだらけで困っている!という方々のほとんどが井戸水洗車、または洗車場の水系が井戸水や硬度の高い工業用水道水だったという事実があります。
洗車時に乾燥させてしまっているのも原因ですが、完全にふき取っても少し雨が降って乾いたときなどに残留したイオン分のせいでイオンデポジットになってしまうというケースも推測できました。
コーティング被膜の素材
自動車塗装のコーティング剤に耐久性だけを求めるのだけであれば非常に簡単な話ですが、実際に求められる性能は多様であり、特に美観に関しては高いレベルが求められています。
耐久性重視のコーティング剤と言えば硬化被膜型のコーティング剤で、確かにこれ以上の耐久性を出せるコーティング剤はないと思うのですが、無機被膜にはイオンデポジットと悪い意味で相性が悪く、工夫しないとイオンデポジットの温床となります。
ガラス系、硬化型~などと呼ばれるいわゆるケイ素系のコーティングは全体的にその傾向がありますので、弊社のコーティング剤は無機ベースですが有機とのハイブリッドによって完璧とまでは言いませんが課題を克服しています。
他社でも親水膜化や有機樹脂とのハイブリッド化は行っている傾向にあります。関連してデポジット対策には撥水が良いか親水が良いかという途方もない議論になりそうですが、これは極めて難しい問題です。
単純に考えてイオンデポジットに関して言えば親水性有利じゃないのか?と感じるでしょうが、親水状態の維持というのは意外と難しく、ボディーの美観と両立するのが困難だからです。美観はソコソコで対イオンデポジットに特化するなら親水剤の類でもいいと思いますが、艶出し剤の類が一切使用できないのと、浸透侵食系のダメージにほぼ無力になります。(弊社調べ)
洗車の行程と仕上がり
洗車時やケミカル使用時の水分乾燥には気をつけましょう!と各所で耳(目)にタコができるくらい書いておりますが、意外と多いのが洗車時に作ってしまっているイオンデポジットが原因の多くを占めます。
詳しく書かせていただきます。実は雨によるイオンデポジットは被膜が親水であっても撥水であってもほとんど出来ないのです。工業地帯での酸性雨なんかは問題ですが、基本的に雨は中性で異物を含まない蒸留水のようなものですので、出来るとしてもボディーに乗っている汚れが原因になるくらいです。
対して洗車時に使用するであろう水道水は確実に金属イオンを含んでおり、なおかつカルキと呼ばれる塩素化石灰が消毒剤として添加されています。これらの成分は乾燥すると白い輪状のシミとなってボディーに残ります。
よって雨上がりで乾燥するよりも洗車中に水分を乾燥させてしまった、水分を拭き取り残してしまったという理由でイオンデポジットがで出来る可能性のほうが圧倒的に高くなります。
あまり気にしていないかもしれませんが、強烈なイオンデポジットが無数にできている場合は、コーティングの性質のせいではなく洗車時の環境(水質や炎天下洗車時の水分乾燥)である場合が非常に多いのです。